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2018.4.30-5.6
顧 天下(コ テンカ) Ko Tenka
遠くにある家
5、6年前、私はイギリスの海辺にある小さな町に住んでいた。家はイギリス海峡に面していて、晴れた日には向こうのフランスがぼんやり見える。大西洋の海風が部屋を通り抜け、家の後の森に消え去っていく。
私は二階に住んでいた。大家さんは高梨さんという名前の日本人で、一階に住んでいる。彼は仏教徒で、毎日早課がある。お香を焚いて、梵音を聴きながら、お経を詠むのが日課だった。
私は毎日、朝日がまだ昇らないうちに、一階から漂ってきたお香の香りとそれに入り混じっている 読経の声で目覚める。夢うつつで部屋に置いてある家具の影を見ようとしても、はっきり見えない。遠くに大西洋の波が海辺を叩いている。その音を聞きながら、私は空に浮いている箱の中にいる感じもするし、海に浮いている船の甲板に横たわっている感じもする。留学する前、私はずっと大学の6人部屋に住んでいたので、一人で生活することをあまり理解できなかった。その時になって初めて自分は故郷から離れている場所にいることが分かったが、具体的にどういったことなのか、うまく捉えられなかった。
「人の一生で降ったすべての雪を、我々は見ることができない。人はそれぞれの生命の中で、ただただ孤独な冬を過ごしているのだ。」とある作家が言った。私はこのシリーズの写真を撮って、いろいろな人に出会った。シャッターを押した瞬間、彼らの部屋に落ちてきた雪を見たような気がする。海辺の部屋で大西洋の波の音を聞いているかのように。その時、私はイギリスにいた頃の心情がようやく分かった。
ミニギャラリー Mini Gallery
同上
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